No. 74
Titre
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Maigret et le corps sans tête
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邦題名
(直訳名)
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メグレと首無し死体
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執筆記録
Rédaction
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1955年1月、米国コネティカット州レイクヴィル
「シャドゥ・ロック農場」にて完成
Shadow Rock Farm, Lakeville ;
Connecticut, U.S.A: 1955.01.25
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参照原本
Éditions
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プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 1962年2月刊
Presses de la Cité; 1962.02
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邦訳本
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長島 良三・訳、河出書房新社#8、1977.08
河出文庫、2000.08
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(←)
プレス・ド・ラ・シテ社版
1962年02月刊のもの
Edition: Presses de la Cité;
1962.02
(⇒)
河出書房新社旧版
1977年8月刊
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物語の季節
Saison
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春分の日も過ぎて冬のコートを脱ぐことを考える3月の下旬。ここしばら
くの間は珍しく雨が降らず、乾いた天気が続いている。柔らかな春の朝
の光が建物の屋根を黄色っぽく照らしている。
(En mars, d'habitude, on ne manque pas d'eau. Cette année-ci, il
n'avait pas plu de deux mois et on menageait l'eau du canal.) (Chap.1)
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メグレの状態
Son état
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捜査中に偶然に入ったカフェの女主人は、相対する客に対しても必要最
小限の言葉しか話さず、超然としている。メグレは彼女の個性とその見
知らぬ背景に惹かれ、自宅での食事中もそのことが気になって無口に
なってしまい、夫人からからかわれる。まさに犯人探しの捜査というより
もその女性との個人的な関係のようにも受け取れた。
(Il s'agissait moins d'une enquête de la police pour découvrir un cou-
pable que d'une affaire personnelle entre Maigret et cette femme.)
(Chap.5)
ただしメグレの場合には、あくまでもその人間をよく知りたいという興味
に他ならず、その人物を常に心に思い描くことによって、最後は完全に
理解するに至るのである。
(Il pensait à Aline Calas, qui était devenue enfin, dans son esprit, un
personnage complet.) (Chap.8)
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事件の発端
Origine
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乾いた天気の続く3月23日の朝、運河の水底に沈んでいたはずの死
体の一部が意外にも早く、重い石材を積んだ平底船に引っかかって引
き上げられたのも、この渇水のせいだったかもしれない。死体はバラバ
ラに切られたのが次々と発見されたが、頭部だけはどうしても見つか
らなかった。検死の結果、50歳代のずんぐりと太った男で、足の形か
らカフェで働いていたようだとわかった。
メグレは本庁に電話をかけようと付近のカフェバーを探して歩き、偶然
さえない一軒の店を見つけて入る。そこで応対に出た女主人が妙に客
を突き放した態度なのでメグレの印象に残った。そこの主人は金曜か
ら旅行に出て不在だというのだが、・・・まさか。
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表題の意味
Ça veut dire
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事件の最初の日から首のない死体の身元がわかるのは奇跡としか言
い様がない。もともとメグレの事件簿は「誰が犯人か?」が問題になる
ことはなく、むしろ「どうしてそうなったか?」という事件の背景や人物
の心理が解明されることが主である。このような偶然で身元がわかる
展開は推理小説なら最低の部類に入れられてしまうが、限られた登場
人物のうごめく演劇性の高い作品は、別な魅力で人生の諸相を語って
くれる。
(N'aurait-ce pas été un miracle que, des le premier jour, le hasard lui
fasse découvrir --- l'identité du corps sans tête?) (Chap.3)
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各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1
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ノード兄弟の見つけたもの
La trouvaille des frères Naud
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レコレ街 rue des Recollets, 10e
ジュマプ河岸 quai de Jemmapes, 10e
ヴァルミ河岸 quai de Valmy, 10e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard Lenoir, 11e
オーステルリッツ河岸 quai d'Austerlitz, 13e
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2
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瓶の封蝋
La cire à bouteilles
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オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
テラージュ街 rue du Terrage, 10e
ヴァルミ河岸 quai de Valmy, 10e
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3
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三輪バイクの若い配達人
Le jeune homme du triporteur
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ヴァルミ河岸quai de Valmy, 10e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
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4
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屋根の上の青年
Le jeune homme sur le toit
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オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
フォブール・サン・マルタン街
rue du Faubourg Saint-Martin, 10e
サン・ルイ・アン・リル街
rue de Saint-Louis-en-l'île, 4e
オテル・デュー病院 Hôtel Dieu de Cité, 4e
ヴァルミ河岸quai de Valmy, 10e
東駅 gare de l'Est, 10e
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5
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インクの壷
La bouteille d'encre
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ヴァルミ河岸quai de Valmy, 10e
ジュマプ河岸quai de Jemmapes, 10e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
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6
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細紐のくず
Les debris de ficelle
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ヴァルミ河岸quai de Valmy, 10e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
レコレ街 rue des Récollets, 10e
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7
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カラス夫人の猫
La Chat de Madame Calas
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リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard Lenoir, 11
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ヴァルミ河岸quai de Valmy, 10e
エクリューズ・サン・マルタン街
rue des Ecluses Saint-Martin, 10e
シャトー・ランドン街 rue du Château Landon, 10e
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8
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サン・タンドレの公証人
Le Notaire de Saint-André
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オーステルリッツ駅 Gare d'Austerlitz, 13e
オルセー・ホテル Hôtel d'Orsay;
quai Anatole France, 7e
サン・ジェルマン大通り boulevard Saint Germain, 7e
モンパルナス大通り boulevard Montparnasse, 6e
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard Lenoir, 11e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
オテル・デュー病院 Hôtel Dieu de Cité, 4e
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メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
シェ・ポポール
Chez Popaul
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サン・マルタン運河沿いのカフェバー。積み下ろしの船員やトラックの
運転手の出入りが多く、いつも混んでいる。
レコレ街 rue des Récollets, 10e
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シェ・カラス
Chez Calas
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サン・マルタン運河沿いの静かなカフェバー。ポワティエ産の白ワイン
が美味。
ヴァルミ河岸 quai de Valmy, 10e
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オルセー・ホテル
Hôtel d'Orsay
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セーヌ河岸の旧オルセー駅内にあった豪華ホテル。現在は駅舎全体が
オルセー美術館となっている。
アナトール・フランス河岸 quai Anatole France, 7e
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ブラッスリ・ドーフィヌ
Brasserie Dauphine
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パリ警視庁の近くにあるブラッスリ。メグレも常連。今回はぼんやりとサ
ンドウィッチを2本平らげる。
ドーフィヌ広場 Place Dauphine, 1er
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警察関係者の動向
Situation de collègue
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ラポワント Lapointe : メグレの配慮で現場に呼び出される。まだ若いので色々経験させたいという考えである。引き上げられた死体の一部を法医学研に車で運んだり、逃走する青年を追いかけて捕まえたり、と大活躍。
リュカ Lucas : 早番で朝6時から勤務していたところに、運河から男の腕が見つかったという通報を受ける。
ジャンヴィエ Janvier : 連行されてきた女主人を待機させる。
ポール医師 Dr. Paul : 運河から引き上げられた死体の解剖をする。首が見つからないので身体に関する特徴から身元の手ががりを探す。
ムルス Moers : 鑑識課員。ヴァルミ河岸のカフェバーで殺人が行われた痕跡が残ってないかどうかを調べるが、完璧に清掃されいてなかなか見つからない。
コメリオ判事 Juge Coméliau : 今回も彼が事件の担当判事となってメグレはがっかりする。容疑者が限られていると判断した彼は、自分から尋問すると言い出す。
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ジュデルJudel : 10区警察の若い刑事。少々ぼんやりしたところがあるが、真面目な仕事をするので現場で立ち合わせるには適任の人物。
デポワル Depoil : 10区警察第3分署の巡査長。死体の一部を発見したという届け出を受け、本庁への連絡とともに、いつものように潜水夫の手配をする。
ブランパン Blancpain : 潜水夫の作業に立ち会う警官。配達の青年が何度も様子を窺っているのを不審に思い、報告する。
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事件にかかわる登場人物
Personnages dans l'affaire
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ジュール&ロベール・ノード Jules & Robert Naud : 兄弟で平底運搬船「ドゥーフレール」を所有。
ポポール Popaul : 運河のそばでカフェバー「シェ・ポポール」を営む。朝から晩まで客で賑わっている。
ヴィクトール・カデ Victor Cadet : 潜水夫。運河で発見されたバラバラ死体の捜索をする。
オメール・カラス Omer Calas : 酒の仕入に出かけたまま行方がわからないカフェバーの主人。運河から引き上げられたバラバラ死体の身元らしいとわかる。
アリーヌ・カラス Aline Calas : カラスの妻。27年間ほとんど出歩かず、運河沿いのカフェバーの店を守る。
リュセット・カラス Lucette Calas : アリーヌの娘。家を出て、オテル・デュー病院の看護婦として働いている。
アントワーヌ・クリスタンAntoine Cristin : 三輪バイク配送係の18歳の少年。
デュードネ・パプ Dieudonne Pape : トラック輸送会社ゼニット社の操配係の中年男。大柄だが気がやさしい清潔好きなタイプで、アリーヌの店の常連。
ヴィコント(子爵) Le Vicomte : 警視庁内をうろつく新聞記者。
ジョゼフ・ラングロワJoseph Langlois : トラック輸送会社ゼニット社の経営者。
カノンジュ公証人 Maitre Canonge : フランス中部サン=タンドレ村の公証人。60歳くらいの身なりの立派な紳士。
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